後遺障害が認定されない理由とは?認定されなかったときの対処法も解説

交通事故後の後遺障害等級の認定は、損害保険料率算出機構の「自賠責損害調査事務所」という認定機関がおこなっています。

交通事故に遭い、残念ながら後遺障害が残ってしまった場合、後遺障害等級認定の申請をおこない、後遺障害等級認定を受けることにより、賠償金(保険金)を多く受け取れる可能性があります。

但し、後遺障害等級認定の申請をしたとしても、自賠責損害調査事務所が後遺障害には該当しない(=非該当)と判断することも実際には多く、その認定率は高くはありません。

そこでこの記事では、なぜ後遺障害が認定されないのか、その理由と対処法を今回は解説していきます。

最後まで読んでいただくことで、医師による医学意見書の重要性の理解が深まりますので、ぜひ最後までご覧くだい。

1.後遺障害は認定されないことが多い

交通事故等により怪我をして、残念ながら後遺障害が残ってしまい、後遺障害等級認定の申請をしたとしても、絶対に認定される保証はありません。非該当となるケースや自分の想定している等級より低い等級しか認定されないケースも多いのです。

後遺障害の認定率なども数字で深堀りしていきましょう。

1-1.後遺障害の認定率

正式に公表されているデータではありませんが、後遺障害等級認定の審査機関である損害保険料算出機構の資料から後遺障害の認定率は、概ね5%程度と判断することができます。

この認定率は、損害保険料率算出機構「自動車保険の概況 2023年度版(2022年度統計)」に記載のある下記データから算出しています。

2022年度の自賠責損害調査事務所における請求受付件数:971,266件

2022年度の後遺障害等級認定件数合計:37,728件

=2022年度の認定率は約3.9%


このデータから、
重い後遺障害から軽い後遺障害まですべて合わせて認定率は約5%程度です。

図表引用元:損害保険料率算出機構「自動車保険の概況 2023年度版(2022年度統計)

1-2.交通事故のむちうちは認定の難易度が特に高い

交通事故で後遺障害が残る傷病として、最も多いのが外傷性頚部症候群(≒頚椎捻挫、貴部挫傷)、いわゆる「むちうち」ではないでしょうか。実は、「むちうち」においては後遺障害として認定されることが非常に少ないのです。前述した5%前後という率から認定率はさらに下がります。

外傷性頚部症候群、「むちうち」の病態においては単純X線や頚椎MRI画像上の他覚的検査やスパーリングテストやジャクソンテストなどの神経学的検査で異常所見が出ないことの方が多いという医学的背景が、最も大きい理由として推定されます。

外傷性頚部症候群、「むちうち」による後遺障害が残った場合は、下記の2つの等級で認定される可能性について検討しましょう。

  • 12級13号:局部に頑固な神経症状を残すと医学的・他覚的に証明可能なもの
  • 14級9号:局部に神経症状を残すと医学的に説明可能なもの

事故の状況や事故直後からの症状経過、治療経過等から、症状が連続・一貫していることが認められ、症状について医学的に説明できる場合、後遺障害等級認定申請が認定される可能性があります。

1-3.後遺障害が認定されない場合のリスク・影響

後遺障害等級認定申請をおこない、後遺障害等級認定されなかった場合、後遺障害等級認定された場合と比べて賠償金は低くなります。

後遺障害等級認定がなされた場合、賠償項目として、後遺障害慰謝料(※1)や逸失利益(※2)が認められる場合が多くなるため賠償金が認定されなかった場合と比べ、高くなります。

※1 後遺障害慰謝料:後遺障害が残ったことによる精神的損害に対する慰謝料のこと。
※2 逸失利益:後遺障害が原因で労働能力が低下し、本来得られるべき利益が得られなくなった利益のこと。

1-3-1.後遺障害の認定がなくても慰謝料が認められるケースもある

例外的に、後遺障害等級認定申請で非該当となったとしても怪我の症状や被害者自身の事情を考慮した結果、後遺障害等級認定申請が認められたケースもあります。

<事例>

・容姿が重視される仕事についている場合(顔や体に傷跡が残ってしまったケース)

例:モデル、俳優など

・痛みやしびれが残ったことで仕事ができなくなり退職することになった場合

例:消防士、警察官、自衛官など

・事故後に既往症が悪化した場合

2.後遺障害が認定されないよくある5つの理由

後遺障害認定の実務的な基準は公開されておらず、後遺障害認定実務に関してはブラックボックスとなっているのです。

弊社の実務経験から、後遺障害が認定されない理由として、下記の点があると推察されます。

  1. 症状が一貫性して持続していないため残存した障害と事故との因果関係がはっきりしない
  2. 医学的・他覚的な所見が不足している
  3. 通院頻度が少ない、治療期間が短い
  4. 事故の規模が小さい
  5. 後遺障害診断書に必要なことが記載されていない

それぞれのポイントを詳しく解説していきましょう。

2-1.症状が一貫性して持続していないため残存した障害と事故との因果関係がはっきりしない

事故後1週間や1ヵ月などの経過で頚部痛などの症状が出現する場合は、事故後から症状が一貫して持続していないと判断され、残存した頚部痛などの傷害と事故との因果関係がないと認定される可能性が高くなってしまいます。

また、寒いときや天気の悪いときだけ頚部痛が出現するというケースも症状に一貫性がないと判断されるので気を付けましょう。

外傷性頚部症候群、むちうちでは、事故後数日して頚部痛など症状が出現することは多くあるとされています。しかし、外傷性頚部症候群では外傷後6時間以内に65%、24時間以内に93%、72時間以内に100%の患者に頚部痛が出現するという医学的な報告があります。

事故後3日前後で症状が出現しているのであれば症状が一貫していると判断される可能性は高まるのです。

2-2.医学的・他覚的な所見が不足している

レントゲン、CTやMRIの画像検査の異常所見やスパーリングテストやジャクソンテストや腱反射などの神経学的異常所見などの他覚的所見が認められない場合、後遺障害等級が認定されない可能性が高くなります。この点は医学的にも納得できる部分です。

しかし、前述した通り、むちうち、外傷性頚部症候群においては、画像検査や神経学的所見などの異常所見が認められないことが多いです。たとえ異常所見が無かったとしても、頚椎MRI検査などの精密検査を受けている場合は、頚部痛などの症状が重かったと判断され、後遺障害の認定がされやすくなる可能性があると推測されます。

医学的に証明していくためにも、可能なら早めにレントゲン検査だけでなく、MRIの検査を受けられるように主治医と相談していきましょう。

2-3.治療期間が短い、通院頻度が少ない

むちうち、外傷性頚部症候群においては、治療期間が2〜3ヵ月と短かったり、1か月に1回程度など通院頻度が少なかったりする場合は後遺障害が認定されにくくなるのです。この点は症状が軽い方でも頻繁に通院される方もいらっしゃいますので、医学的には納得できない部分ではあります。

交通事故の後遺障害の認定は紙ベースの資料を基準におこない、実際の交通事故被害者(患者)と面談したりせずにおこなうため、通院期間や通院頻度で症状の程度を判定しているのだと推察されます。

弊社の実績を考慮すると、治療期間はむちうち、外傷性頚部症候群においては、通院期間は6〜7ヵ月以上、通院頻度は週1回程度以上で認定される可能性が高くなっているので、このことは知っておいて良いでしょう。

2-4.事故の規模が小さい

事故後の車両の損傷状況から交通事故の規模が小さいと判断された場合、物損事故として処理された場合は、交通事故から受けた身体への外傷が小さいため後遺障害も小さいと判断され、後遺障害が認定される可能性があります。

しかし、医学的には停車中の追突など無意識下での外傷では軽微な外力で症状を発症しやすいとされています。この点も交通事故の後遺障害の認定は紙ベースの資料を基準におこなっているためと推察されますが、医学的には不可解な部分です。

2-5.後遺障害診断書に必要なことが記載されていない

後遺障害等級の認定において最も重要な書類が、後遺障害診断書になります。しかし、医師も実は後遺障害診断書の適正な書き方を教わってはいないのです。したがって、医師によって後遺障害診断書の書き方は異なり、後遺障害認定に必要な内容が記載されないということが起こり得ます。

後遺障害診断書を作成する際に、現在の自分の症状をしっかりと伝えて主治医にしっかり記載してもらう必要があるでしょう。後遺障害診断書に症状が記載されていないと、一貫して症状が持続していないと判断されてしまうリスクがあるかもしれません。

そのため、レントゲンやCT、MRIの画像検査の異常所見やスパーリングテスト、ジャクソンテスト、腱反射などの神経学的異常所見といった他覚的所見がある場合は、その内容を記載してもらいましょう。

また関節可動域の制限がある場合は、健側と患側の両方の可動域を必ず自動運動と他動運動で測定してもらい、記載してもらいましょう。

後遺障害診断書は後遺障害認定においてとても重要な書類になりますので、主治医と作成前によく相談しておく必要があります。

3.後遺障害が認定されなかったときの対処法

後遺障害等級認定がなされないと、先述している後遺障害慰謝料や逸失利益を受け取ることができません。また、後遺障害等級認定されたとしても低い等級で認定されると、本来受け取れる賠償金(保険金)より低くなってしまう場合があります。

後遺障害等級認定がなさらなかった場合、認定された後遺症障害等級に納得がいかない場合は、以下の対応を検討してください。

  • 異議申し立てをおこなう
  • 紛争処理制度を利用する
  • 裁判所へ訴訟を提起する
  • 医師による医学的情報を強化する

どのような対応をしていけば良いか見ていきましょう。

3-1.異議申し立てをおこなう

異議申立書を作成した上で、後遺障害等級認定の申請をおこなった自賠責保険会社へ異議申立書を送付することで異議申立は完了します。

異議申立自体は何度でもおこなえますが、客観的な新しい証拠を出すことができなければ、非該当の結論が変わる可能性はかなり低いです。

異議申立をした事案で、自賠責保険審査会という専門部会で専門的な審査を受けた件数は2022年度は10,353件で、その結果認定された等級が変更となったのは1,111件であったいうデータがあり、異議申立における後遺障害認定率は10%程度となっているのです。

図表引用元:損害保険料率算出機構「自動車保険の概況 2023年度版(2022年度統計)

異議申立をする場合は、追加で画像検査を受けるなど新たな医学的な証拠提出することも検討し、慎重に進めていくことが大切になります。

3-2.紛争処理制度を利用する

後遺障害等級認定の申請をおこなった自賠責保険会社ではく、「一般社団法人自賠責保険・共済紛争処理機構」へ、紛争処理申請(異議申立)をすることも可能です。

紛争処理申請の場合、自賠責保険会社への異議申立とは違い、申立は1回のみかつ紛争処理の調停委員が審査をおこなうことになります。

3-3.裁判所へ訴訟を提起する

裁判所へ訴訟を提起し、裁判官に後遺障害の有無を判断してもらう方法があります。

裁判所では裁判官が独自に後遺障害について判断しますが、裁判官によっては自賠責損害調査事務所の判断を踏襲する傾向にある裁判官も存在するようです。

交通事故の後遺障害の経験が豊富な弁護士の先生と相談しながら、提出する証拠を吟味しましょう。

3-4.医師による医学的情報を強化する

異議申し立て、紛争処理制度の利用、裁判所への訴訟提起のいずれの手段をとったとしても、後遺障害等級認定がなされる新たな医学的な証拠が必要となってきます。

専門医による医学意見書は、画像検査や神経学的所見などの異常所見の有無に関する医学的な評価や医学的根拠の補強に繋がる医学文献や解説が記載されており、臨床経験に基づいた具体的な意見を記載することにより医学的な情報を強化することが可能です

医学意見書を新たな証拠として追加することも検討してみてください。

関連記事:交通事故の後遺障害における医学意見書の役割やメリットとは?

4.【弁護士の先生へ】医学意見書作成は当社にお任せください

弊社は、様々な診療科で年間200件以上の医学意見書やカルテ画像精査回答書を作成しています。弁護士の先生向けに、各診療科専門医と直接やりとりやり取りができる医師面談のサービスも準備しております。

医師面談では、各診療科専門の医師に直接、論点や疑問点を質問でき、その場で、意見書作成の可否をスクリーニングさせて頂くことも可能であることから、ご好評を頂いております。

※医師面談は、33,000円(税込)/1時間~となっております。

これまで蓄積されたノウハウにより、弊社の医学意見書が解決に導いた事例も多数存在します。詳しくは後述しますが、医学意見書をご要望の際は、医師が運営する弊社へ、是非、ご相談ください。

5.当社作成の医学意見書によって後遺障害が認定された事例

ここでは、弊社が作成した後遺障害等級認定で、当社作成の医学意見書が後遺障害の認定において有効であった事例をいくつかご紹介してきます。

5-1.事例 外傷性頚部症候群で非該当だった事案が異議申立をして神経症状14級と認定

当社で画像や診療録などを精査させていただき、診療録を追加で取り寄せる必要があると判断しました。診療録に記載されている症状や治療内容を評価すると、症状が一貫しており、症状経過や治療経緯から自覚症状が単なる故意の誇張ではないと推定されました。

当社の医学意見書と新たに取り寄せた診療録を追加して異議申立をしたところ、非該当であった事案が神経症状14級と認定されました。

5-2.事例② 胸椎椎体骨折は陳旧性であるとして非該当だった事案が変形障害8級と認定

当社で診療録や画像を精査させていただき、臨床症状の経過や画像所見の経時変化に評価させていただいたところ、胸椎椎体骨折は陳旧性のものではなく新鮮なものであると判断されました。また椎体の変形の程度も数値で計算させていただき医学意見書内で補足説明させていただきました。

当社の医学意見書を追加して異議申立をしたところ、非該当であった事案が変形障害8級と認定されました。

5-3.事例③ 膝外傷後に膝の関節可動域制限が残存したが非該当だった事案が異議申立で関節機能障害12級と認定

当社で診療録や画像を精査させていただいたところ、画像所見として前十字靱帯損傷があることが判明しました。そのため、膝の不安定性などの関節機能の障害が残存したと考えられました。

医学意見書内で画像所見とともに、関節機能障害が発症する機序について医学的に補足説明させていただきました。

当社の医学意見書を追加して異議申立をしたところ、非該当であった事案が関節機能障害12認定されました。

6.まとめ

交通事故後に医療機関で治療をおこなうも残念ながら後遺障害が残ってしまうことはあるでしょう。にもかかわらず、後遺障害等級認定を申請しても認定される率は5%と、認定される可能性は低いといえます。

後遺障害が認定されない理由は以下の通りです。

  1. 症状が一貫性して持続していないため残存した障害と事故との因果関係がはっきりしない
  2. 医学的・他覚的な所見が不足している
  3. 通院頻度が少ない、治療期間が短い
  4. 事故の規模が小さい
  5. 後遺障害診断書に必要なことが記載されていない

一度、非該当という認定がなされた場合、異議申立・紛争処理制度の利用・訴訟提起などの選択肢があります。いずれの選択肢を選ぶとしても、新たな医学的な証拠の準備が必要となるでしょう。

当社では、経験豊富な専門医が医学意見書の作成など新たな医学的証拠に関して全面的にサポートいたします。交通事故後に外傷性頚部症候群、むちうちを発症して後遺障害が認定されずにお悩みの方は、ぜひ合同会社ホワイトメディカルコンサルティングまでご相談ください。

 

白井康裕

このコラムの著者

白井 康裕

【経歴・資格】
・日本専門医機構認定 整形外科専門医
・日本職業災害医学会認定 労災補償指導医
・日本リハビリテーション医学会 認定臨床医
・身体障害者福祉法 指定医
・医学博士
・日本整形外科学会 認定リウマチ医
・日本整形外科学会 認定スポーツ医

2005年 名古屋市立大学医学部卒業。
合同会社ホワイトメディカルコンサルティング 代表社員。
医療鑑定・医療コンサルティング会社である合同会社ホワイトメディカルコンサルティングを運営して弁護士の医学的な業務をサポートしている。

【専門分野】
整形外科領域の画像診断、小児整形外科、下肢関節疾患