後遺障害認定のデメリットとは?申請方法別のメリット・デメリット
交通事故に遭い、その時の受傷が残念ながら将来においても回復の見込みがない状態(症状固定)となり、交通事故と残存した傷害との間に、相当な因果関係を認めかつその存在が医学的にも認められるものを後遺障害といいます。
後遺障害が残ってしまった場合、後遺障害に対する賠償(保険金)を受け取るためには後遺障害等級認定を受ける必要があります。
後遺障害等級認定を受けることのメリット・デメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
この記事を読み進めると医学意見書の重要性がわかりますので、是非最後まで御覧ください。
1.後遺障害の認定とは?
医学上一般に認められた治療方法をもってしても効果が期待できず、残存する症状が自然な経過で到達した最終の状態に達したときを「症状固定」といいます。
つまり、交通事故等で負った外傷などを治療したものの、治療の効果が期待できず「症状固定」と判断されたときに後遺障害が認定されるのです。
「症状固定」の判断は医学的な判断であり、必ず医療機関により医師によって「症状固定」の判断がされる必要があり、その際後遺障害診断書が医師によって作成されます。
後遺障害等級認定は、後遺障害の程度に応じて認定される等級(1級~14級)であり、数字が小さくなるほど後遺症の症状は重くなります。
後遺障害等級認定申請が認められると、後遺障害による慰謝料や後遺障害による逸失利益に関する賠償(保険金)を請求することが可能となります。
1-1.後遺障害の認定を受けるまでの流れ
後遺障害の認定を受けるまでの流れは、以下の通りです。
①症状固定まで医療機関で継続して治療を受ける
症状固定は医師により判断されるので、保険会社に症状固定と言われても、必ず医療機関に通院して、医師に前述した症状固定の状態になっているのか判断してもらう必要があります。
②後遺障害診断書を作成してもらう
症状が残存し、医療機関で医師に症状固定と判断された場合は、医師に後遺障害診断書を作成してもらいます。
③後遺障害認定の申請をおこなう
後遺障害に関する資料を収集し、資料を自賠責損害調査事務所へ申請し提出します。申請方法は、事前認定と被害者請求の2つがあります。
④調査がおこなわれる
提出された後遺障害に関する資料が、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所にて、後遺障害について障害認定基準に沿って調査されます。
⑤調査の結果が通知される
後遺障害認定結果について申請方法に基づき通知されます。
⑥結果に不服がある場合は異議申し立てをおこなう
等級認定に不服がある場合は、異議を申し立てることができます。
2.後遺障害の認定を受けるデメリットはほとんどない
日常の生活や仕事において後遺障害等級認定を受ける影響はありません。デメリットはほとんど無いといえるでしょう。
一方で、金銭面では少々デメリットが生じます。後遺障害が認定されるまでは、保険会社が医療費を支払ってくれていた場合、医療機関で症状固定と診断されたあとも通院する場合の医療費は自己負担となるためです。
ただし、症状固定と診断されたあとも医療機関へ通院する場合は、第三者行為による傷病届を提出することで健康保険が適用となります。(全額自己負担ではなく、医療費の1割~3割程度の自己負担)
また、後遺障害診断書等の作成にも費用がかかります。
そのため、生活におけるデメリットはほとんどありませんが、金銭面でのデメリットがすこしだけあります。
2-1.認定後の生活に制限は受けない
後遺障害等級認定により、「将来の生活に影響するのではないか」と心配になる被害者のかたもいるでしょう。
周囲の人に知られる、年金支給や健康保険への悪影響、公共のサービスを受けられなくなるといったことはないのです。
そのため、後遺障害等級認定を受けたからといって、認定後の生活に何ら制限を受けることはありません。
3.後遺障害の認定を受ける際の注意点はある
後遺障害の認定を受けることに対してデメリットは、ほとんどありませんが、注意すべき点があるのです。今回は、注意点として以下の3点を解説します。
- 認定されるまでに時間とコストがかかる
- 生命保険の加入に制約を受ける可能性がある
- 希望よりも低い等級で認定を受ける可能性がある
それぞれ解説していきます。
3-1.認定されるまでに手間と時間がかかる
後遺障害認定の審査を受けるためには、それなりの手間と時間がかかります。
- 医師が症状固定と判断するまで通院する必要がある
- 後遺障害に関する診断書や審査に必要な書類(診療録や単純X線・MRI・CTなどの画像データなど)を集める必要がある
- 後遺障害の審査機関(自賠責損害調査事務所)に申請し、結果を待つ必要がある
これらをおこなうのに、弁護士などの専門家に依頼することも可能ですが、それでも相当程度の手間と時間が掛かるのです。
3-2.生命保険の加入に制約を受ける可能性がある
後遺障害の等級が認定されたからといって生命保険の加入ができなくなるわけではありませんが、後遺障害が重い方は加入に制限を受けることがあるのです。
生命保険加入時に制限を受ける可能性がありますが、後遺障害等級認定はあくまでも交通事故における損害賠償を保証してもらう制度です。後遺障害等級認定されたからといって直ちに、生命保険に加入できないわけではありません。
一方で、生命保険に加入する時は、持病や障害などの告知義務があります。後遺障害の程度は人それぞれ異なりますが、後遺障害が重い場合は、生命保険に加入できないあるいは、免責の条件が付加される可能性があるのです。重度の後遺障害が認定された場合には、生命保険加入について保険会社に問い合わせることをお勧めします。
しかし、生命保険の保険会社はたくさんあり、加入の条件は各保険会社によって異なるため、保険会社によっては生命保険に加入できることも十分にあるのです。
3-3.希望よりも低い等級で認定を受ける可能性がある
後遺障害を認定される等級が低くなると、賠償(保険金)も低くなり適切な賠償(保険金)を受けとることができません。
後遺障害の認定基準は公表されておらず、認定実務に関してはブラックボックスとなっています。
多くの認定事例から逆算すると、希望より低い認定となる原因として下記のようなものが考えられるのです。
- 通院日数が少ない場合
- 提出した書類等に不足がある場合
- 交通事故と受傷した外傷の因果関係が疑われている場合
- 医学的な他覚的所見が不十分と思われる場合
- 交通事故による車両などの損害が小さく外傷の程度が小さいと判断された場合
3-3-1.認定結果に納得できない場合は異議申し立てをおこなう
後遺障害等級認定を申請して結果が非該当や低い等級であった場合は、異議申し立てをおこなうことができます。
同じ申請を繰り返しても結果が変わることは、ほとんどありません。よって、異議申し立てをする際には、新たな医学的な検査資料、医師の意見書等を提出する必要があります。
医学的な検査資料や証拠を提出する場合には、医療鑑定会社など医療の専門家である医師に相談することがお勧めです。
4.後遺障害認定の申請方法別のメリット・デメリット
後遺障害等級認定の申請方法は、事前認定もしくは被害者請求の2種類があります。
それぞれのメリット・デメリットを見ていきましょう。
4-1.事前認定のメリット・デメリット
事前認定とは、加害者側の任意保険会社を通じて後遺障害等級認定を申請する方法となります。
事前認定では、被害者側が加害者側任意保険会社に、医師が記載した後遺障害診断書を提出することで、後の手続きは加害者側任意保険会社がおこなってくれます。ただし、加害者側が任意保険未加入の場合、事前認定の申請はできません。
4-1-1.事前認定のメリット
事前認定のメリットは以下の通りです。
- 手続きを加害者側任意保険会社に任せるため、手間が少ない
- 手続きにかかる費用が少ない
事前認定と被害者請求を比べると簡便であることが何よりのメリットとなります。
4-1-2.事前認定のデメリット
事前認定のデメリットは以下の通りです。
- 手続きの経過が不透明
- 書類が不足している場合でも申請される場合がある
- 後遺障害認定の等級が低くなる可能性がある
後遺障害等級認定は誰もが認定されるものではありません。加害者側の任意保険会社を通じておこなわれますので、提出される書類の内容までは担保されていません。
どうみても後遺障害等級認定が認められるような場合であれば、事前認定でも問題ないでしょうが、後遺障害等級認定の内容に納得したい、比較的簡単な場合を除けば、被害者請求を検討したがよいでしょう。
4-2.被害者請求のメリット・デメリット
後遺障害等級認定を被害者自身がおこなう方法で、加害者側の自賠責保険会社に必要な書類を提出します。被害者請求では、必要書類の作成や準備を被害者自身が担うことになります。代理人として弁護士が申請することも可能です。
4-2-1.被害者請求のメリット
被害者請求のメリットは以下の通りです。
- 提出書類の内容を被害者自身で精査することが可能である
- 手続きが事前認定と比べ透明である
- 賠償金を先にもらう(自賠責限度内)が可能である
認定された等級に応じて、保険金を示談の成立を待たずに、先に賠償(保険金)を貰えることがメリットといえます。
4-2-2.被害者請求のデメリット
被害者請求のデメリットは以下の通りです。
- 手間と時間がかかる
- 医療情報(カルテ、CT・レントゲン当等)の入手に実費費用がかかる
被害者請求の場合、手続きに手間と時間がかかることが大きなデメリットです。
ただし、検査内容の資料をあらたに添付したり、加害者側の保険会社との見解の相違がある場合などは、デメリット以上にメリットがあるといえるでしょう。
5.事前認定よりも被害者請求が適している3つのケース
被害者請求は手間と時間がかかる等のデメリットがありますが、以下のケースは被害者請求が適しているといえるでしょう。
- 認定後の即時賠償が必要なケース
- 高次脳機能障害が残存したケース
- 検査などで他覚的な所見が出にくい(視覚では判断しにくい)後遺障害が問題となるケース
それぞれを見ていきましょう。
5-1.認定後の即時賠償が必要なケース
被害者請求の場合であれば、後遺障害等級認定後、認定された等級に応じて賠償(保険金)の支払いを受けることができます。
そのため、後遺障害等級認定後すぐに賠償(保険金)を受け取りたい方は、被害者請求をするのがよいでしょう。治療費や生活費に充てることができます。
ただし、事前に受け取る賠償(保険金)は、最終的な示談金から差し引かれることになります。
5-2.高次脳機能障害が残存したケース
高次脳機能障害は重篤な後遺障害であるものの、障害の内容が周囲の人からはわかりづらいという側面があります。そのため、高次脳機能障害が残ってしまった場合、後遺障害を証明するに、被害者本人だけではなく、同居する家族や職場の同僚などからも話を聞くなどして、証拠を集めることが必要なケースもあります。
被害者本人の症状がわかるように事前に資料や証拠の準備をおこなった後で、申請することが重要なため、被害者請求をおこなうことが望ましいと思われます。
5-3.検査などで他覚的な所見が出にくい(視覚では判断しにくい)後遺障害が問題となるケース
外傷性頚部症候群・頚椎捻挫・頚部挫傷(俗にいうむちうち)は単純X線画像・CT画像・MRI画像で他覚的な画像所見が出ない代表的な疾患です。
そのため、後遺障害等級認定申請したとしても認定されにくい傾向があります。
そのため、単純X線検査をしていない場合は、追加のMRI検査を提出する資料として加えることなど資料の追加を検討する必要があるのです。また、医師に症状をしっかりと伝え、他覚的所見もしっかり記載してもらった不備のない後遺障害診断書を書いてもらう必要があります。
このような場合、事前認定では資料が不足する場合も考えられるため、被害者請求をおこなうことが望ましいと思われます。
6.後遺障害の認定には医学意見書作成も視野に入れよう
弊社が作成する医学意見書は、事故後の賠償(保険金)請求や裁判における医学的な証拠として重要な役割を果たします。後遺障害の認定の際には、医学意見書を資料として追加することを検討しても良いのではないでしょうか。
主治医とは異なる専門医が、第三者の医師として中立な立場で診療録や診断書や画像検査を精査して正確かつ詳細に医学的意見を述べるため、で医証としての信頼性や価値が高くなるのです。
また、医学的な争点に関する領域の専門医が作成することで医証としての価値も更に高くなります。
医学意見書が活躍できる場面としては、以下のようなタイミングとなります。
- 被害者請求のタイミング
- 異議申立のタイミング
- 訴訟のタイミング
日本の医学は高度に専門化しているので、対応する診療科の専門医を間違えると、医学意見書の説得力がなくなり、相手方に反論する余地を与える可能性があるため、医学的な争点の具体的な内容を吟味して、どの診療科の専門医が対応していくのが良いか考える必要があります。
弊社は、ほぼすべての診療科の専門医が在籍しており、また医学意見書のどの診療科の専門医が作成するかの判断は医師がおこなっており、正確な判断ができるのです。
医学意見書作成をご検討の際はぜひ、弊社にお気軽にご相談ください。
弊社サービス概要や医学意見書及び後遺障害等級認定で医学意見書が活用された事例については、以下の記事もあわせてご覧ください。
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7.まとめ
後遺障害の認定においては、事前認定と被害者請求の2つがありますが、デメリットとして後遺障害認定後に医療機関に通院する場合は、医療費の自己負担分が発生するという小さなデメリットのみです。
後遺障害が残った場合は、認定を受ける方がメリットが大きいでしょう。ただし、は自分の思うような後遺障害が認定されない場合が多いため、手間がかかっても適切な後遺障害の認定を希望される場合は法律(弁護士)や医学(医師)の専門家への相談を検討しましょう!
このコラムの著者
白井 康裕
【経歴・資格】
・日本専門医機構認定 整形外科専門医
・日本職業災害医学会認定 労災補償指導医
・日本リハビリテーション医学会 認定臨床医
・身体障害者福祉法 指定医
・医学博士
・日本整形外科学会 認定リウマチ医
・日本整形外科学会 認定スポーツ医
2005年 名古屋市立大学医学部卒業。
合同会社ホワイトメディカルコンサルティング 代表社員。
医療鑑定・医療コンサルティング会社である合同会社ホワイトメディカルコンサルティングを運営して弁護士の医学的な業務をサポートしている。
【専門分野】
整形外科領域の画像診断、小児整形外科、下肢関節疾患