労災によるしびれで認定される後遺障害等級や給付金額・認定のポイント

労災事故によって残る「しびれ」は、日常生活や仕事に大きな影響を与える深刻な後遺障害です。適切な後遺障害等級認定を受けるためには、医学的な証拠の準備や正確な手続きを進める必要があります。

そこでこの記事では、整形外科専門医が以下の内容について詳しく解説していきます。

  • しびれで労災認定を受けるための条件
  • 労災によってしびれが残った場合に受けられる補償の種類
  • しびれによる後遺障害で認定される障害等級について
  • しびれによる後遺障害が認定されるまでの流れとポイント

しびれによる後遺障害にお悩みの方は、ぜひ最後までご覧ください。

1.しびれで労災認定を受けるための条件

まず、しびれが労災として認定されるには以下の条件を満たす必要があります。

  • 業務や労災事故との因果関係があること
  • しびれが続いていること
  • しびれの存在を医学的・他覚的に証明できること

それぞれのポイントを詳しく解説します。

1-1.業務や労災事故との因果関係があること

労災認定を受けるには、以下のようにしびれが業務や労災事故と因果関係があることを示す必要があります。

  • 重い荷物を持ち上げた際の腰部への負荷が原因でしびれが発症した場合
  • 交通事故などによる外傷が原因でしびれが発症した場合

業務内容としびれの関係性を証明するため、発生した状況や事故の詳細を正確に記録しておくと良いでしょう。

1-2.しびれが続いていること

一時的なしびれではなく、日常生活や業務に支障をきたす状態が労災認定の対象となり、継続的な症状が認められることが重要です。断続的な症状や、事故から時間が経過してから発症した場合、労災との関連性を証明しにくくなるためです。

したがって、事故後から治癒(症状固定)まで、一貫してしびれが続いていることを示す必要があります。

1-3.医学的にしびれの継続を証明できること

しびれが継続していることを医学的に証明するには、医師による診断書や検査結果が必要です。

また、定期的な通院の際に医師によってしびれの存在が診療録に記載されることで、症状の継続性や事故との因果関係を裏付ける証拠となります。

2.労災事故でしびれが残った場合に受けられる補償の種類

ここからは、労災事故でしびれが残った場合に受けられる補償の種類と、しびれによる後遺障害認定を受けた場合の補償について詳しく説明します。

2-1.労災認定で受けられる補償

労災認定で受けられる補償は、以下の2種類です。

  • 療養給付(療養補償給付)
  • 休業給付(休業補償給付)

一つずつ解説します。

2-1-1.療養給付(療養補償給付)

療養給付とは、労働者が業務中や通勤途上での事故により負傷したり、疾病にかかったりした際に、その治療に必要な費用を労災保険から支給する制度です。業務中の場合は「療養補償給付」、通勤中の場合は「療養給付」と呼ばれます。

補償の対象となる費用には、診察、薬剤や治療材料の支給、手術、入院費用などが含まれます。また支給期間は、症状が安定し、医療行為が終了するまで続きます。

2-1-2.休業給付(休業補償給付)

休業給付は、労働者が業務中や通勤途中の負傷や疾病により労働できず、賃金を受けられない場合に、労災保険から支給される給付です。業務中の場合は「休業補償給付」、通勤中の場合は「休業給付」と呼ばれます。

休業4日目から、給付基礎日額の60%が支給されます。

2-2.しびれによる後遺障害認定を受けた場合の補償

労災に関連した外傷・怪我の治療については、適切な医療処置を受けることで全快を目指すのが理想的です。しかしながら、医学上一般に認められた治療が終了しても、症状が完全に消えず、後遺症として一定の障害が残る場合があります。これを「症状固定」と呼びます。

症状固定の状態で麻痺や痛みなどが残存している場合には、専門機関において後遺障害の等級認定を受けることで「障害補償給付」に該当する給付金を受け取ることが可能です。この制度は、被災者の生活支援を目的として設けられており、等級に基づいて給付額が算定されます。

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3.労災によるしびれで認定される後遺障害等級について

しびれによる後遺障害で認定される障害等級について、以下2つの項目に分けてさらに詳しく解説していきます。

  • しびれによる後遺障害で認定される障害等級の種類
  • 補償金の給付方法や計算方法

一つずつみていきましょう。

3-1.しびれによる後遺障害で認定される障害等級の種類

しびれによる後遺障害で認定される障害等級には、「12級13号」「14級9号」の2種類があります。

3-1-1.障害等級12級13号

障害等級12級13号は、国土交通省が公表する後遺障害等級表にて「局部に頑固な神経症状を残すもの」と定義されています。

たとえば、MRIやCTなどの画像検査や神経伝導速度検査や筋電図検査などで医学的・他覚的にしびれ(≒神経症状)の存在が明確に確認できて、しびれが持続している場合に該当します。

3-1-2.障害等級14級9号

障害等級14級9号は、後遺障害等級表にて「局部に神経症状を残すもの」と定義されています。

MRIやCTなどの画像検査や神経伝導速度検査や筋電図検査で明確な異常が確認できない場合でも、臨床経過や治療経緯からしびれが単なる故意の誇張ではないと推定され、かつ一貫して持続しており、しびれの存在を医学的に説明可能な場合に認定されます。この等級でも、労災保険からの補償を受けることができます。

3-2.障害補償給付の給付方法や計算方法

前述もしたとおり、しびれによって後遺障害認定を受けた場合、障害補償給付がおこなわれます。ここでは、その給付方法と給付金額の計算方法について解説していきます。

3-2-1.障害補償給付の給付方法

12級および14級の場合、「一時金」として支給されます。また一時金は、一括で支払われます。

3-2-2.障害補償給付の計算方法

後遺障害等級第12級および第14級に該当する場合の給付金額は以下のように定められています。

後遺障害等級 12級13号 14級9号
障害補償給付 給付基礎日額の156日分 給付基礎日額の56日分
障害特別支給金 20万円 8万円
障害特別一時金 算定基礎日額の156日分 算定基礎日額の56日分


給付基礎日額とは、労災事故直前の3か月間に支払われた賃金総額を、該当期間の暦日数で割った金額のことです。(この金額には、ボーナスや臨時給与は含まれません)

たとえば、3ヶ月(90日)の合計賃金が90万円だった場合、「90万円÷90日=1万円」が1日分の給付基礎日額となります。

一方算定基礎日額とは、労災事故前の1年間に支払われた特別給与(ボーナス等)の総額を365日で割った金額です。特別給与がない場合、障害特別一時金の給付は適用されません。

4.しびれによる後遺障害が認定されるまでの流れとポイント

しびれによる後遺障害が認定されるまでの流れとポイントについて、以下の5点を解説していきます。

  1. 医師から治癒と判断されるまで通院を続ける
  2. しびれに関する医学的証明を準備する
  3. 医師に診断書を書いてもらう
  4. 労働基準監督署に申請する
  5. 認定されなかった場合は審査請求をおこなう

それぞれ解説します。

4-1.医師から治癒(症状固定)と判断されるまで通院を続ける

労災によるしびれが発生した場合、まずは適切な治療を受けるようにしたうえで、医師から治癒(症状固定)と判断されるまで、継続的に通院してください。

自己判断で通院を中止すると、後遺障害の認定に不利になる可能性があります。

4-2.しびれを医学的に証明できる材料を準備する

冒頭でも説明したように、労災認定や後遺障害認定を受けるためには、しびれの存在を医学的に証明する必要があります。

そのため、MRIやCTスキャンなどの画像検査を医師に相談を受けたりし、必要であれば神経伝導速度検査や筋電図検査を受けて、医学的証明のための準備を進めておきましょう。

また、スパーリングテストやSLRテストや腱反射などの神経学的検査を主治医に行ってもらうことも、しびれの存在を医学的に証明するのに役立ちます。

4-3.医師に後遺障害診断書を適切に書いてもらう

治療が終了し、治癒の状態になり次第、担当医師に「後遺障害診断書」を作成してもらいましょう。この診断書には、しびれの程度や医学的所見、治療経過などが詳細に記載されます。

認定を受けるうえで適正かつ正確な診断書を作成してもらうためにも、自身でよく主治医の先生と相談して、症状を正確に伝えるようにしてください。主治医による後遺障害診断書は後遺障害の認定において重要な書類ですので、記載漏れや必要な事項の記載があると後遺障害が本来認定されるはずなのに認定されないということが起こり得るのです。

また、前述したMRIやCTなどの画像検査、神経伝導速度検査、筋電図検査の検査結果、スパーリングテスト、SLRテスト、腱反射などの神経学的検査結果は、後遺障害診断書に記載してもらうように医師に相談するようにしましょう。

4-4.労働基準監督署に申請する

必要な書類が揃ったら、所轄の労働基準監督署に後遺障害等級認定の申請をおこないます。申請には、「障害補償給付支給請求書(様式第10号)」や医師の診断書などが必要です。

申請後、労働基準監督署が審査をおこない、等級認定の結果が通知されます。

審査の際には労災医員という労災認定の業務を行う専門の意思による診察を受けることもあります。この時も後遺障害診断書を記載してもらう時と同様、自身で労災医員と相談して、症状を正確に伝えるようにしてください。

4-5.認定されなかった場合は審査請求をおこなう

申請の結果、希望する等級が認定されなかった場合や不服がある場合は、審査請求を行うことができます。審査請求では、新たな医学的証拠や専門家の意見書を提出することで、再評価を求めることが可能です。この際、弁護士などの専門家に相談すると、適切な対応が期待できます。

5.審査請求に必要な医学意見書作成は当社へお任せください!

労災事故により手足のしびれによる後遺障害が残った場合、適切な後遺障害等級の認定を受けることが重要です。そのためには、医学的な意見書の作成が欠かせません。

当社では、労災に精通した整形外科専門医や脳神経外科専門医が、後遺障害等級認定に必要な医学意見書の作成をサポートいたします。適切な等級認定を受けることで、障害補償給付などの適正な補償を得ることが可能となります。

※当社は弁護士の先生からのお問い合わせに対してのみ、サービスを展開しております。そのため労災事件当事者の方は、必ず代理人弁護士の先生を通してご連絡頂きますよう、よろしくお願い申し上げます。

6.しびれによる後遺障害は会社に損害賠償請求をできるケースもある

しびれによる後遺障害は、会社に対して損害賠償請求をできるケースもあります。

6-1.会社に対し損害賠償請求をできるケース

労災事故が会社の「安全配慮義務違反」や「使用者責任」によるものである場合、労働者は会社に対して損害賠償請求をおこなうことができます。

たとえば、設備の整備不良や安全教育の欠如、過重労働の強要などが該当します。これらの状況で労働者が被害を受けた場合、会社の過失が認められ、損害賠償請求が可能となります。

6-2.損害賠償請求は専門家へ相談

会社に対する損害賠償請求は、法的手続きや証拠の収集など専門的な知識が必要です。そのため、適切な補償を得るためには、労災問題に詳しい弁護士や専門家へ相談をするようにしてください。 

7.まとめ

労災事故によるしびれの後遺障害は、適切な補償を受けることで生活の負担を軽減することが可能です。しびれによる後遺障害認定を受ける際は、以下の流れで申請を進めるようにしてください。

  1. 医師から治癒(症状固定)と判断されるまで通院を続ける
  2. しびれを医学的に証明できる材料を準備する
  3. 医師に後遺障害診断書を適切に書いてもらう
  4. 労働基準監督署に申請する

また、後遺障害が認定されなかった場合は、審査請求をおこなうようにしましょう。

審査請求では、医学意見書を用意しておくことが効果的です。当社では、経験豊富な専門医が全面的にサポートいたします。しびれによる後遺障害や補償についてお悩みの方は、ぜひ合同会社ホワイトメディカルコンサルティングまでご相談ください。

白井康裕

このコラムの著者

白井 康裕

【経歴・資格】
・日本専門医機構認定 整形外科専門医
・日本職業災害医学会認定 労災補償指導医
・日本リハビリテーション医学会 認定臨床医
・身体障害者福祉法 指定医
・医学博士
・日本整形外科学会 認定リウマチ医
・日本整形外科学会 認定スポーツ医

2005年 名古屋市立大学医学部卒業。
合同会社ホワイトメディカルコンサルティング 代表社員。
医療鑑定・医療コンサルティング会社である合同会社ホワイトメディカルコンサルティングを運営して弁護士の医学的な業務をサポートしている。

【専門分野】
整形外科領域の画像診断、小児整形外科、下肢関節疾患