鑑定医の強み
後遺障害の認定実務には、実際に診療を行った主治医が診断書や回答書に記載した意見が尊重されるケースが多いのではと思われます。確かに、実際に診療をした主治医は診療録に記載されていること以外にも、いろいろな診察や会話をして患者から情報を得ていますので、患者を実際に診療をした主治医の意見は尊重されるべきです。
一方で、私たちのような鑑定医は診療録や検査画像等の資料からしか、患者の状態を鑑定できません。実際に診療をした主治医よりも情報力が少ないことは否定できません。では、私たち鑑定医の医学意見は尊重されなくても良いのでしょうか。私はそうは思いません。鑑定医の意見が尊重されるケースは存在すると考えます。
具体的には、時間経過の中で複数の病院を通院し、複数の病院で診察や検査などが行われているケースは鑑定医の方が患者の一連の診療経過を正確に評価できる可能性があると考えています。複数の病院で治療をしているケースでは、転医された側の病院の主治医は前医の診療録を見ることはできません。診療情報提供書という形で、前医から診療情報が提供される場合がありますが、要約した記載のみであることがほとんどです。ですので、転医された側の病院の主治医は事故から前医の診療経過までの一連の診療経過を詳細に把握することはできません。一方で、私たち鑑定医は事故後から症状固定まで、通院した医療機関の診療録をすべて鑑定できるケースが多いです。事故から一連の診療経過を詳細に把握することが可能ですので、患者の病態を正確に評価できることがあります。これが鑑定医の一番の強みではないかと考えています。
医者の世界に有名な格言として”後医は名医”という言葉があります。後から見た医者は、前の医者がいろいろと検査したり治療した後で、その後の治療効果も含めて診断ができるので、より正確な診断や治療ができるという事実を表しているものです。鑑定医もすべての検査や治療が終わった後で後ろ向きに鑑定していますので、”後医は名医”となり得ると考えています。ちなみに、医者の世界では後医が前医を批判するのは、ご法度とされています。患者に不安や不信感を抱かせてしまうことが理由です。弊社の鑑定でも、前医の批判は基本的には行いません。しかし、医療の質の向上に資することができればという思いで鑑定を行っていますので、”後医は名医”であることを理解したうえで、適正な鑑定意見を述べるようにしています。このあたりのバランスは難しいところですね。
このコラムの著者
白井 康裕
このコラムの著者
白井 康裕
【経歴】
平成17年 名古屋市立大学医学部卒業
その後、クリニック・中小病院から高度医療機関・大学病院まで様々な病院で勤務や研究に従事し、多数の資格を保有。
現在も複数の医療機関にて非常勤の整形外科専門医として勤務している。
【専門分野】
整形外科領域の画像診断、小児整形外科、下肢関節疾患