交通事故により頚椎の椎間板が突出する?
頚椎椎間板ヘルニアとは、頚椎と頚椎の間に存在する軟骨である椎間板が、脊髄や神経根が通っている脊柱管内に突出して、脊髄や神経根を圧迫することにより症状を呈する疾患です。交通事故後に頚部周囲に症状がある方に頚椎MRIを撮影すると、頚椎椎間板ヘルニアが見つかることがあります。この画像所見により、”交通事故により頚椎椎間板が突出して、頚椎椎間板ヘルニアによる症状を発症したんだ!”と考える弁護士の先生方が少なからずいらっしゃる印象です。
整形外科専門医の最大公約数の意見は、交通事故により頚椎椎間板が突出するかどうかは、はっきりとわからないというものでしょう。その理由は、交通事故前後で頚椎MRI所見を比較して、頚椎椎間板が突出したかどうかを確認する研究を行うことが難しいからです。しかし、亡くなられた献体を解剖すると1/3に頚椎椎間板ヘルニアが見つかり、生前は無症状であったことが報告されています。このことから、無症候性ヘルニアは一定程度存在すると、整形外科専門医は考えています。ですので、交通事故により頚椎椎間板が突出する可能性は低く、交通事故後の頚椎MRIで頚椎椎間板ヘルニアを見つけても突出している椎間板周囲に血腫などの急性期の所見が無ければ、その頚椎椎間板ヘルニアは事故前に存在していた無症候性頚椎椎間板ヘルニアであると考えるのがしっくりきます。
それでは、交通事故後に事故前は無症候だった方が頚部痛や上肢の痛み・しびれなどの頚椎椎間板ヘルニアの症状が出現し、事故後の頚椎MRIで頚椎椎間板ヘルニアが見つかった場合はどうでしょうか?事故後には初めて出現した頚部痛や上肢の痛み・しびれなどの症状は事故とは無関係なのでしょうか?これに関しては、事故後の頚椎椎間板ヘルニアの症状の発症には、交通事故が関与している可能性は高いです。頚椎椎間板ヘルニアの発症要因の疫学調査では、外傷もその1つだということが知られているからです。つまり、交通事故のよる頚部への外傷が誘因となり、事故前から存在していた無症候性頚椎椎間板ヘルニアが発症することは十分にあり得るからです。
まとめますと、交通事故により頚椎椎間板が突出する可能性は高くないが、頚部痛や上肢のしびれや痛みなどの症状が発症する可能性は十分にあるということです。このあたりのニュアンスを是非ご理解いただけると有難いと考えています。
このコラムの著者
白井 康裕
【経歴・資格】
・日本専門医機構認定 整形外科専門医
・日本職業災害医学会認定 労災補償指導医
・日本リハビリテーション医学会 認定臨床医
・身体障害者福祉法 指定医
・医学博士
・日本整形外科学会 認定リウマチ医
・日本整形外科学会 認定スポーツ医
2005年 名古屋市立大学医学部卒業。
合同会社ホワイトメディカルコンサルティング 代表社員。
医療鑑定・医療コンサルティング会社である合同会社ホワイトメディカルコンサルティングを運営して弁護士の医学的な業務をサポートしている。
【専門分野】
整形外科領域の画像診断、小児整形外科、下肢関節疾患