実際に診療を行った主治医の診断と鑑定医の鑑定結果が違う!

最近、自動車賠償責任保険後遺障害診断書に記載されている主治医の診断と弊社鑑定結果の間に乖離のある事案のご相談を複数経験しました。

例えば、自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書の診断は“腰椎椎間板ヘルニア”であるものの、実際に診療録や画像を鑑定してみると“腰椎椎間板ヘルニア”とは鑑定できないケースです。

弊社へ依頼していただく弁護士の先生は“腰椎椎間板ヘルニアである”という鑑定を希望されているのですが、忖度して鑑定するわけにもいきません。

結果的に弊社へ依頼していただいた弁護士の先生には残念な鑑定結果となるわけですが、中立・適正な医学情報を提供することが弊社の理念ですので、やむを得ません。

このように実際に診療を行った主治医の診断と鑑定医の鑑定結果が違うケースにはパターンがあることが分かってきました。概ね2つのパターンに分けられます。

 

① 画像では自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書に記載されている診断名の所見は認められないが、専門医の主治医が臨床的に診断しているケース

② 非専門医の主治医が放射線科医の画像読影による診断を鵜呑みにして、自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書に記載しているケース

 

①のケースは違和感はありません。例えば、整形外科専門医が肩痛があり、可動域制限ある患者様に対して、MRIなどの精密検査を行ったもののはっきりした所見を見いだせなかったケースです。腱板断裂においては、MRIではっきり腱板断裂等の所見は見いだせなかったものの、関節鏡検査で実際にカメラで直接観察してみると、腱板断裂が認められるケースが存在します。このようなケースを想定して、整形外科専門医が患者の症状や臨床所見を基にして、臨床的に診断をします。臨床的な診断は、時に実臨床では行われることもあります。このようなケースでは実際の主治医が臨床的に診断するのであればわかるのですが、鑑定医はカルテや画像などの資料を基に鑑定するので、鑑定医がこのような臨床的な鑑定をすることは困難です。

②のケースはすこし厄介です。時々、交通事故被害者の方が交通事故後に非整形外科専門医(たとえば、外科専門医)のクリニックで整形外科を標榜しているクリニックへ通院しているケースです。外科専門医の先生で整形外科を標榜してクリニックを開業している先生方は、整形外科のことをたくさん勉強されている先生が多いです。しかし、整形外科専門医は専門医試験という比較的難易度の高い試験をパスして、担当患者の症例レポートを提出して整形外科専門医になっています。やはり、整形外科領域では整形外科専門医と整形外科非専門医の間には、診療のレベルが異なるはやむを得ないでしょう。このケースでは、MRIを撮影して精密検査をしたものの、非専門医は読影や診断に自信がないため、放射線科医の画像読影による診断を鵜呑みにして自動車損害賠償責任保険後遺障害に診断名を記載しているものと思われます。このようなケースはカルテに記載されている臨床所見と自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書に記載されている診断名に乖離が出てきます。また、放射線科専門医も骨関節や脊椎脊髄の読影を専門とする医師ばかりではないので、放射線科医の診断が異なることもあり得ます。補償の現場は混乱することになるでしょう。

依頼していただいた弁護士の先生の希望する鑑定でなくても、不適正な後遺障害等級の認定は社会にとっても好ましくないと考えます。

これからも、忖度せず中立・適正な医学情報を提供していきたいと考えています。

 

弊社では以下の期間をお盆休みとさせていただきます。

お盆休み期間:8月13日~8月16日

お盆休み中に頂いたお問合せについては、お盆休み期間終了後に順次回答させていただきます。

皆様には大変ご迷惑をおかけしますが、ご了承のほどよろしくお願いします。

白井康裕

このコラムの著者

白井 康裕

このコラムの著者

白井 康裕

【経歴】
平成17年 名古屋市立大学医学部卒業
その後、クリニック・中小病院から高度医療機関・大学病院まで様々な病院で勤務や研究に従事し、多数の資格を保有。
現在も複数の医療機関にて非常勤の整形外科専門医として勤務している。
【専門分野】
整形外科領域の画像診断、小児整形外科、下肢関節疾患