むちうちの症状が日によって違う理由とは?後遺障害認定への影響も解説

「昨日は楽だったのに、今日は頭痛と首の痛みがひどい…」

むちうちの症状が日によって違うと、本当に治るのか不安になりますよね。さらに、「症状に波がある」と保険会社に伝えたら、嘘だと疑われて治療を打ち切られないか、と心配になる方も少なくありません。実は、日によって症状に波があり異なることはむちうちの典型的な特徴であり、ごく自然なことです。そのため、日によって症状が違うことを過度に心配しすぎる必要はありませんが、後遺障害等級においては不利に働く可能性も否定できません。

そこでこの記事では、整形外科医が以下の内容を専門的に解説していきます。

  • むちうちの症状が日によって違う理由
  • むちうち(外傷性頚部症候群)の主な症状と症状の波
  • むちうち(外傷性頚部症候群)の症状がとくにひどい日の対処法
  • 症状に波があることで不利にならないためにできること

むちうちの症状が毎日変わって不安という方は、ぜひ最後までご覧ください。

※「むちうち」という言葉について
このコラムでは、皆様にとって馴染み深く、分かりやすい「むちうち」という言葉を使用して解説を進めますが、これは正式な病名ではなく、あくまで一般的な呼び名(俗語)です。

医療機関における正式な診断名は、「外傷性頚部症候群」となります。

1.むちうち(外傷性頚部症候群)の症状が日によって違うのはごく自然なこと

まず始めに述べておきたいのが、「むちうちの症状が日によって違うのはごく自然なこと」ということです。

むちうちの症状は、「昨日は楽だったのに、今日はひどい」というように、日によって波があることがあります。これは決して珍しいことではなく、むしろ、ごく自然な経過です。

むちうちは、単なる軟部組織損傷だけでなく、交感神経や血流といったさまざまな要因の影響を受けやすい、非常にデリケートな症候群です。そのため、症状の波に一喜一憂せず、その背景にある理由を正しく理解することが、安心して治療を続けるうえで大切なポイントとなります。

2.むちうち(外傷性頚部症候群)の症状が日によって違う理由

症状が日によって違う理由

むちうちの症状が日によって変動する原因について、さらに深掘りしていきましょう。むちうちの症状が日によって違うのには、以下4つの理由が関係しています。

  • 頚部筋の緊張や炎症の変動
  • 疲労やストレス
  • 頚部の血流障害
  • 自律神経の乱れ

それぞれ解説します。

2-1.頚部筋の緊張や炎症の変動

むちうちにおいて、慢性化した頚部痛には椎間関節の滑膜炎の遷延が影響しているとされています。この椎間関節の滑膜炎の炎症の強さは、常に一定ではありません。

たとえば、調子が良い日に無理をして動いてしまうと、そのときは良くても、翌日になってから炎症がぶり返し、症状が悪化することがあります。

日々の活動が、椎間関節の滑膜炎の状態に影響を与え、むちうちの症状の波を生み出します。

2-2.疲労やストレス

むちうちでは頚部の交感神経障害により、頭痛やめまいなどの症状を引き起こすバレー・リュー症候群を呈することがあるとされています。

このバレー・リュー症候群は外傷性や心因性のストレスによるものがあるのです。睡眠不足などによる身体的な疲労や仕事や家庭での精神的なストレスは、むちうちの症状を悪化させる要因です。

疲労やストレスが症状の変動に関与しています。

2-3.頚部の血流障害

バレー・リュー症候群は首を走行している椎骨動脈という血管の循環不全によっても発症するとされています。椎骨動脈の血流障害の程度により、症状が日により変わることもあり得るのです。

2-4.自律神経の乱れ

むちうちでは、頚部の交感神経(≒自律神経)にも傷害を来すとされています。

自律神経は、血圧や体温、内臓の働きなどをコントロールする体の調整役です。自律神経のバランスが崩れると、症状が日によってかわるがわる現れることも、むちうちではよくあるのです。

3.むちうち(外傷性頚部症候群)の主な症状と症状の波

むちうちの症状は非常に多岐にわたり、その多くが日によって変動することがあります。これは、むちうちの症状が前述した通り、頚部の筋肉だけでなく血流障害や自律神経といった体調や環境の変化に敏感な要因により発症するためです。

ここでは、むちうちの代表的な4つの症状と、その症状の波について解説します。

  • 首の痛み
  • 頭痛
  • 四肢のしびれ
  • めまい

それぞれ解説します。

3-1.首の痛み

むちうちで最も多くみられる代表的な症状が、首の痛みです。交通事故による外力で、体の以下のような箇所に傷害が引き起こされ、痛みが発生するとされています。

  • 頚椎の筋群
  • 椎間板
  • 椎間関節
  • 後根神経節
  • 椎骨動脈
  • 交感神経系

首の痛みは慢性化することもあるのです。慢性化の病態はまだ医学的に詳細には解明されていませんが椎間関節滑膜炎の遷延化、頚神経根後枝の刺激症状などの原因が考えられています。

3-2.頭痛

むちうちによって、頭痛が引き起こされることも珍しくありません。頭痛の機序として、以下のような要因が考えられています。

  • 上位頚椎神経根(C2神経根)の圧迫や炎症や神経根への痛み刺激が吻合を介して三叉神経第1枝領域の痛みとして出現すること
  • 上位頚椎神経脊髄路核は上位神経根の刺激を三叉神経領域の疼痛と感じることがあること
  • 頚筋の緊張やスパズムによって頭部筋群も収縮して緊張性頭痛が生じること

頭部筋群の緊張が日々変動することで、頭痛症状の波が出現します。

3-3.四肢のしびれ

むちうちの症状として、四肢のしびれがあらわれる場合があります。神経根症状や脊髄症状として四肢のしびれや筋力低下を認めることがあるのです。むちうちではMRI画像所見の異常がないにもかかわらず、四肢のしびれが生じることが多いとされています。

これのしびれの症状も首の痛みや頭痛と同様に症状は変動します。

3-4.めまい

むちうちの症状として、首の痛みと同時に、以下のような一見関係なさそうなめまいの症状が現れることがあります。バレー・リュー症候群と言われており、首を走行している椎骨動脈という血管の循環不全や頚部の交感神経(≒自律神経)によって発症するとされています。

椎骨動脈という血管の循環不全や頚部の交感神経(≒自律神経)の状態はその日の体調やストレスに大きく左右されるため、症状に波が出やすいのです。

4.むちうち(外傷性頚部症候群)の症状がとくにひどい日の対処法

むちうちの症状がとくにひどい日は、無理に動かず、痛みを和らげる以下の対処法を実践してみましょう。

  • 頚部の痛みなどの症状が出る動きを避ける
  • 無理のない範囲で軽いストレッチをおこなう
  • 医師から処方された湿布や痛み止めを使用する

ひとつずつ解説します。むちうちの症状に波がありお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。

※ただし、自己判断による行動がかえって症状を悪化させるリスクもあります。必ず、医師の指導にもとづいた適切な対処を心がけましょう。

4-1.頚部の痛みなどの症状が出る動きを避ける

痛みが慢性期に移行して、症状が強い日はまず痛みが出る動きを避けることが重要です。首を回旋させると痛みが出る場合は、腰から回旋するようにして首の痛みが出ない動きを心がけるようにしましょう。

受傷後2週間くらいまでは、頚椎カラーを装着してもよいとされています。

4-2.病院でリハビリをしたり、無理のない範囲で軽いストレッチをおこなう

痛みが少し落ち着いたタイミングでは、無理のない範囲での軽いストレッチや運動療法が有効です。

受傷後1週程度経過したら、病院でのリハビリを考えてもよいでしょう。症状が強いときは医師や理学療法士と相談してリハビリを行うことで症状緩和が期待できます。

必ず、専門職と相談しながら行い、痛みやしびれが強まるような場合は、すぐに中止し絶対に無理をしないでください。

4-3.医師から処方された湿布や痛み止めを使用する

痛みがとくに強く日常生活に支障が出るような場合は、決して痛みを我慢せずに、医師から処方された湿布や痛み止め(消炎鎮痛剤)を使用しましょう。

痛みを我慢しすぎると、痛みが痛みをさらに引き起こす悪い循環になることもあります。つらい症状を一時的に和らげるだけでなく、回復を早めるためにも有効な手段です。

5.むちうちで認定される後遺障害等級

むちうちの症状が、治療を続けても完治せず、後遺障害として残った場合、その症状の程度に応じて、「後遺障害等級」の認定を受けられる可能性があります。後遺障害等級が認定されると、治療期間に対する慰謝料とは別に、後遺症が残ったことに対する慰謝料(後遺障害慰謝料)などを請求することが可能です。

むちうちの神経症状で認定されうる等級は、主に12級13号と14級9号の二つです。

5-1.12級13号

後遺障害等級12級13号は、「局部に頑固な神経症状を残すもの」と定義されており、認定を受けるためには、症状の原因を示す「客観的な医学的所見」が不可欠です。

たとえば、MRIの画像診断で椎間板ヘルニアなどが確認され、そのヘルニアが圧迫している神経の支配領域と患者が訴える手足のしびれの範囲が、医学的に一致している場合などです。

むちうちの症状に波があったとしても、客観的な医学的所見があれば、症状の存在を強力に証明できます。

5-1.14級9号

後遺障害等級14級9号は、「局部に神経症状を残すもの」と定義された後遺障害等級です。MRIなどの画像所見はないものの、症状の存在が医学的に説明可能で、その訴えに一貫性・継続性がある場合に認定されます。

14級9号では、「症状が常時持続している」という事実が重要になります。症状日記などをつけ、「調子の良い日も悪い日もあるが、症状が常時継続している」ことを一貫して主張し続けることが、認定を受ける鍵となり得るのです。

関連記事:しびれで後遺障害14級が認定されるためのポイント6選

6.むちうち(外傷性頚部症候群)の症状が日によって違うと後遺障害等級認定に影響する?

むちうち(外傷性頚部症候群)の症状が日によって違う場合でも、 後遺障害等級認定に必ずしも不利になるわけではありません。ただし、症状の「波」があることは、後遺障害等級の認定時に「症状の客観的な評価が難しくなる要因」となる可能性はあります。

むちうちの症状が日によって違うことで、診断書や検査結果だけでは症状の常時一貫して持続している程度が正確に伝わらない場合があるからです。

「症状に波がある」という事実を、いかに客観的かつ医学的に、そして一貫して証明できるかが、適正な等級認定を受けられるかどうかの分かれ道となります。

7.症状に波があることで不利にならないためにできること

むちうちの症状が日によって違うという事実が、後遺障害等級認定時に不利に働かないようにするためには、日頃から「むちうちの症状を客観的な証拠として記録・蓄積していくこと」が何よりも重要です。

ここでは、あなたの正当な権利を守るために、今日からできる5つの具体的な行動をご紹介します。

  • 医師に対して症状の「波」はあるものの常時持続していることを正確に伝える
  • 症状日記をつけて記録に残す
  • 自己判断で通院を中断しない
  • MRIなどの精密検査を受ける
  • 保険会社の対応に疑問を感じたらすぐに弁護士に相談する

「痛い」という主観的な訴えだけでは、相手に軽視されかねません。ひとつずつ確認してください。

7-1.医師に対して症状の「波」はあるものの常時持続していることを具体的かつ正確に伝える

診察の際には必ず、「調子の良い日と悪い日がある」ものの、「痛みは常時持続している」ことを具体的かつ正確に医師に伝えてください。

医師は、あなたの訴えをもとにカルテに症状を記録します。このカルテは、あなたの症状の経過を示す極めて重要かつ公的な証拠となります。「雨の日はとくに頚部痛がひどい」という訴えだと「晴れの日には頚部痛はない」と誤認識されてすます場合があるのです。必ず、「常時持続している」ことを詳しく説明するよう心がけましょう。

7-2.症状日記をつけて記録に残す

医師のカルテを補強するより詳細な証拠として、日々の症状を記録した「症状日記」をつけることをおすすめします。

症状は日によって異なるものの、症状が一貫して持続していることを毎日簡潔に記録します。継続的に記録することで、むちうちの症状に波がありながらも、常時持続していることを示す証拠となり得ます。

7-3.自己判断で通院を中断しない

症状が少し楽になった日でも、医師がまだ治療が必要だと判断している限りは、絶対に自己判断で通院を中断してはいけません。

保険会社が、通院が途絶えたという事実を「症状が改善した」「治療はもう不要だ」と判断して、治療費の支払いを打ち切る判断をする可能性があります。症状に波がありながらも症状が常時持続しているからこそ、治療の必要性を客観的に示すためにも、医師の指示に従った、継続的な通院実績が不可欠なのです。

7-4.MRIなどの精密検査を受ける

むちうちの痛みやしびれが続いていても、レントゲンで「異常なし」と判断される場合があります。その際は、MRIなどの精密検査を受け、症状の原因を客観的に示す証拠(他覚的所見)を得ることが重要です。

もしMRIで、事故が原因の椎間板ヘルニアなどが見つかれば、むちうちの症状があることを示す他覚的な医学的証拠となります。医師に相談のもと、精密検査を検討するようにしましょう。

関連記事:むちうちはレントゲンでわかる?「異常なし」といわれたときの対処法

7-5.保険会社の対応に疑問を感じたらすぐに弁護士に相談する

もし、保険会社の担当者から、治療費の打ち切りを迫られたり不当に低い慰謝料を提示されたりした場合は、その場で安易に同意せず、すぐに交通事故に詳しい弁護士に相談してください。

弁護士は、あなたの代理人として、これまで積み重ねてきた客観的な証拠(カルテ、症状日記、MRI画像など)をもとに、保険会社と法的に対等な立場で交渉してくれます。弁護士という法律の専門家の力を借りることが、あなたの正当な権利を守るための最も確実な方法です。

8.【弁護士の先生へ】むちうち(外傷性頚部症候群)の後遺障害認定は弊社にお任せください

むちうちの症状は、日によって良くなったり悪くなったりする「波」があるため、後遺障害等級認定の立証は困難を伴います。特に「レントゲンで異常なし」とされた場合、その症状の変動が事故との因果関係を曖昧にし、適切な等級認定を妨げる大きな壁となる場合があります。

弊社は、交通事故案件に特化した医療鑑定・コンサルティング会社です。症状に波がある「むちうち」の特殊性を理解し、その変動がありながらも常時症状が持続しているのかどうか医学的に明確にするためのサポートを提供します。

MRI画像を含む詳細な検査結果の分析、カルテや診断書の精査を通じて、症状の波が単なる主観的なものではなく、客観的な医学的根拠にもとづいていることを証明できる場合があるのです。弁護士の先生方が法的主張に集中できるよう、症状の変動を裏付ける説得力のある医学意見書を作成し、依頼者様の正当な権利獲得を力強くサポートします。

むちうちの立証でお困りの際は、ぜひ弊社にご相談ください。

9.まとめ

この記事では、むちうちの症状が日によって違う医学的な理由から、慰謝料請求で不利にならないための具体的な対処法まで、網羅的に解説しました。

むちうちの症状に波があるという方は、波がありながらも症状が持続していることを医師に正確に伝え、症状日記などで客観的な記録として残すようにしてください。また、調子が良い日でも通院を続けることも大切です。

これらの行動が、あなたのむちうち症状が故意誇張でなく持続していることを証明し、正当な後遺障害等級の認定へと繋がります。合同会社ホワイトメディカルコンサルティングでは、むちうちの後遺障害認定に有効な証拠となる医学意見書の作成をおこなっております。

むちうちの症状を抱え医学意見書が必要な状況にある方は、ぜひ弊社にご依頼ください。

白井康裕

このコラムの著者

白井 康裕

【経歴・資格】
・日本専門医機構認定 整形外科専門医
・日本職業災害医学会認定 労災補償指導医
・日本リハビリテーション医学会 認定臨床医
・身体障害者福祉法 指定医
・医学博士
・日本整形外科学会 認定リウマチ医
・日本整形外科学会 認定スポーツ医

2005年 名古屋市立大学医学部卒業。
合同会社ホワイトメディカルコンサルティング 代表社員。
医療鑑定・医療コンサルティング会社である合同会社ホワイトメディカルコンサルティングを運営して弁護士の医学的な業務をサポートしている。

【専門分野】
整形外科領域の画像診断、小児整形外科、下肢関節疾患