後遺障害が「ないこと」の証明は難しい?

ここ最近、弊社取引先法律事務所の相手方弁護士事務所から提出された医学意見書を拝見し、反論意見書を作成することが続きました。反論した意見書の多くは、第一線から引退された経歴も肩書も華やかな先生たちが作成した意見書でした。当然、そのような先生方の意見ですから、的を得た意見も存在します。しかし、多くの意見書では違和感を感じることもありました。

違和感の原因を考えてみると、それらの意見書には「完全に無い論」で意見を述べている部分が多いことだと気づきました。“○○の検査が陰性なので、〇〇の症状が出現することは有り得ない”、“後遺障害は皆無である”というような意見です。はたして本当にそうなのでしょうか?確かに一般的な外傷や疾患のエピソードとは異なる経過である事案は時に存在します。しかし、診療録や後遺障害診断書などに症状が一貫して記載されているにもかかわらず、「完全に無い」と断言するのは難しいと思われます。診療録や後遺障害診断書などに症状が一貫して記載されていることは、患者が症状に困り訴えていたということも推測されます。一般的な外傷や疾患のエピソードと異なることや検査陰性だけを理由に、性悪説で「後遺障害は無い」と決めつけるのは少し乱暴なのではないかと感じています。昨今の新型コロナウィルスの抗体検査でも偽陰性(疾患を持っているのに、検査では陰性と判定される例)の問題が取りざたされています。どのような検査でも偽陰性というのは、一定程度存在します。「完全に無い」というのは医学的にはなかなか難しいと思われます。

一方で、診療録を拝見していると、精神的要素が疼痛遷延に影響していることが推測される事例もあります。医師は患者とトラブルになりそうな際には、診療録を詳細に記載することが多いからです。そのような、詳細な記載が多くある場合には弊社でも慎重に意見を述べるようにしています。

弊社意見書では、診療録や画像などの資料を見て、意見を述べているにすぎません。やはり、実際に診療を担当した医師の意見が一番尊重されるのが望ましいと考えています。弊社では、鑑定医としての立場を忘れず、中立・適正な鑑定を心がけています。